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『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』著者・水島宏明さんインタビュー 『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』著者・水島宏明さんインタビュー
最新刊
ネットカフェ難民と貧困ニッポン ネットカフェ難民と貧困ニッポン

日本テレビ放送網  価格:1,000円(税込)

日テレノンフィクション第1弾!
「漂流する貧困者たち」と「破壊される雇用」…。今や社会現象となった“ネットカフェ難民”の名づけ親が語る、貧困ニッポンの真実!
【内容】
日本テレビから、「日テレノンフィクション」シリーズ誕生!
日々の「報道番組」のなかでは伝えきれないニュースの“真実”や“裏側”、そして放送の“その後”を、1冊にまとめて発信していく。
第1弾は、日本テレビが2007年1月28日放送した『NNNドキュメント’07・ネットカフェ難民〜漂流する貧困者たち』が問題提起となり、社会現象になった“ネットカフェ難民”をとりあげ、取材をとおして見えてきた彼らの実態、そして、“日本の今”に迫る。


画像1 【目次】
 漂流する難民
chapter1 ネットカフェ難民たち
chapter2 案内人シュウジさん

II 難民SOS
chapter3 自立生活サポートセンター「もやい」
chapter4 貧困ビジネス

III 闘うネットカフェ難民
chapter5 ネットカフェ難民の味方
chapter6 日雇い派遣と社会情勢

IV ネットカフェ難民はどこへ
chapter7 ネットカフェ難民生活からの脱出
chapter8 国の対応
chapter9 貧困は個人の責任ではない

インタビュー
−−そもそも、ネットカフェ難民を取材しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

水島さん ホームレスの支援者たちともよく話をしているんですが、あるとき、今、貧困の問題の切り口としてはどういうものがあるか、という話題になったんです。すると、最近はネットカフェがすごい状況になっている。ネットカフェに行ったら、今の日本の貧困がよく見えるから、とにかく泊まってみなさい、と言われたことですね。それで、すぐに蒲田のネットカフェに泊まりに行ったんです。

−−そのときの印象はかなり強烈だったようですが。

水島さん もう驚きました。大きなバッグやリュックを抱えて泊まっている人が、本当にたくさんいたものですから。店の中にはすえた臭いが漂っていましたし、怒鳴り合いの声も聞こえました。

−−そういう状況で眠れたのですか。

水島さん いえ、まず、ここで眠るということがどういうことか理解できませんでした。元々その店は混んでいるんですが、あえて個室ではなく、仕切りだけがあるオープン席に入ったんです。それで、こうやってちょっと背中を伸ばせば隣の人が何をやっているのかわかってしまう。周りを見ると、腕組みして寝ている人がいれば、キーボードをカチャカチャ叩いてオンラインゲームに夢中になっている人もいますし……。

−−なんだか、落ち着きませんね。

水島さん いちばんびっくりしたのは自分の持ち物を山のように積み上げて、砦みたいにしている人がいたことです。ああ、この人はずいぶん長くその席を占拠しているんだろうな、と思いました。
 それで、もう、これはすごいことになっているなと思って、他の地域にあるネットカフェにも泊まったんです。そうしたら、そこも同じような感じで……。そうして調べていくうちに、かなりの数のネットカフェ宿泊者がいることがわかってきて、これは社会問題として世に訴えなければと思ったんです。

画像2 −−それまでにネットカフェを利用されたことはあったんですか。

水島さん それがまったく無かったんです。ドイツから5年ぶりに帰ってきたらネットカフェとか漫画喫茶とかの看板がやたらと目に付いたんですが、これはどういうものなのかよくわからなくて、時間制とかなっているけど、たぶん追加料金取られるんだろうな〜とか、怪しげなお金を取られるのはいやだな〜とか、考えていました。

−−とても危険なところのように思われていたのですね。

水島さん だから、最初入ったとき、どうやって利用していいのかわからなかったんです。いきなり店員からどうしますか?って聞かれたので、パソコンを使えるところと答えたんですよ。よく考えたら、ネットカフェでパソコンを使えない席なんてないんですが(笑)。すると、個室かリクライニングチェアか聞きなおされて、ああ、そういう注文の仕方をするんだということがようやく理解できました。

−−なぜ蒲田のお店を選ばれたのでしょうか。

水島さん 蒲田の近くには工場や倉庫、空港などがあって物流の拠点なので、そういう関係で働いている日雇い派遣の人たちがよく利用しているということを聞いたんです。また、ネットカフェの価格破壊もすごくて、都内ではいちばん安い地域ですね。

−−本書の中に、1時間100円という料金が出ていますが。

水島さん そのような激安ネットカフェというのは大久保などにもあるんですが、そちらは主に外国人が利用していますね。

−−それで、2007年1月に「ネットカフェ難民〜漂流する貧困者たち」が放送されるのですが、反響はどうでしたか。

水島さん とても大きな反響がありました。まず、こういう実態を初めて知ったと同時に、日本社会がおかしなことになっていることに気づいたという感想です。あと、年配の方からショックだと言われたのが、日雇い派遣の人が現場に向かうところで、みんな何となくよそよそしく立っていて、送迎のワゴン車が来ればサーッと乗っていくというシーン。あの光景が昔の山谷(さんや)などでみられた人買いによく似ていたそうです。

−−番組には実際にネットカフェで寝泊りしている方にもインタビューされていますが。

水島さん 実はいちばん多かったのが、番組に出てくれたヒトミさんとかシュウジさんとか、そういう方に対して援助したいから、彼らの連絡先を教えてくれというものでした。
 番組では、社会がこういうふうな構造になっているということを伝えようとしたんですが、視聴者の多くは、そういう事実を冷静に受け止めるというよりは、かわいそうとか、何かしてあげなくては、という気持ちになるらしいんです。

−−そういえば、番組が放送される2ヶ月くらい前に、崖っぷち犬が話題になりました。

水島さん あのときも、引き取りたいという申し出が多数あったそうです。でも、崖っぷち犬じゃなければダメなんですね。兄弟犬もいるんですが、それではダメだと。それと同じような感じで、NPOでそういう人たちを支援するところがあるので紹介しましょうかと言うと、いや、出てきたヒトミさんやシュウジさんを救いたいから、連絡先を教えてくださいと。それがいちばん多かったです。こちらが社会の構図として伝えたいと考えても、それが今の視聴者層には伝わりにくくなっていますね。

−−ちょっと話が変わりますが、ネットカフェの団体から、「ネットカフェ難民」という言葉を使わないでくれという要請があったと聞きます。

水島さん 8月に厚生労働省がいわゆる「ネットカフェ難民」の調査結果を発表したんですが、その直後にネットカフェの業界団体が声明を出したり記者会見を開いたりして「ネットカフェ難民」という言葉はお客様に失礼なので使わないでくれと言い出したという状況です。業界全体のイメージダウンにつながる、ということでした。ただ報道する側としてもネットカフェが悪いと言っているわけではなくて、むしろそうしたところに住まざるを得ない人たちが増えているという社会問題を取り上げているので、この点は理解していただきたいと思っています。

画像3 −−それでも、「ネットカフェ難民」は2007年の流行語大賞でベスト10に入りました。

水島さん 元々、番組のタイトルのために「ネットカフェ難民」という言葉をつくったわけですが、その後にもういろいろなメディアで使われるようになっていて、確かに何にでも「難民」という言葉を付ける風潮はどうかという批判はあると思います。
 しかし自分自身がかつて海外の難民キャンプを取材した印象と重なる点が多かったこと。そしてそういう人たちを表現する言葉として他に相応しい表現がなかったですから。行政やメディアも含めて定着しましたね。他のマスコミも、それじゃ「ネットカフェ難民」という言葉は使わないようにしよう、とはならなかったですね。しっくりくる表現だったということでしょうか。

−−ネットカフェ難民の存在に世間の目を向けさせたという功績は大きいですね。

水島さん それまでにも新聞などでは時々取り上げられていたのですが、テレビ番組として正面から取り上げたのが初めてだったことと、「ネットカフェ難民」という言葉が、彼らの実態をとてもイメージしやすかったのも大きいと思います。

−−番組では日雇い派遣の問題にも焦点をあてていましたが、放送当時と比べて、状況は改善されていると思いますか。

水島さん 雇用の規制緩和によって生まれた日雇い派遣ですが、さすがに今のままではいけないだろうということは、大手の労働組合や政財界でも認識されつつあると思います。また、ネットカフェ難民に関していえば、厚生労働省が就労支援を打ち出したり、東京都が住宅や生活の資金援助として300億円を予算化したりするなど、かなり本格的に動いています。
 ただ、問題解決には行きすぎた規制緩和を再び規制するしかないんですが、グローバリゼーションに対応するためには、間接雇用というのをある程度広げなければいけないという意見も財界を中心に相変わらず根強いわけで、今の日雇い派遣を根本的に見直せるかというと、そこまではいってないですね。

−−それほど単純な話ではないわけですね。ところで、本書を読んで感じたのですが、ネットカフェ難民と呼ばれる人たちは、自分たちを支援してくれる人や団体の存在を知らないのではないでしょうか。

水島さん だんだんとわかってきているとは思います。確かに、非常に孤立した人たちではありますが、最近ではニュースなどを読んで、支援の動きがあることがわかると、そこにアクセスする人たちが出てきています。

−−そもそも「ネットカフェ難民」自体を支援する組織はなかったわけですか。

水島さん 本書にいちばんよく出てくるNPO法人「もやい」なども、これまではいわゆる路上生活者を支援する活動が中心だったわけですが、最近ではネットカフェやファーストフード店で寝泊りしていたという人が訪れることも多くなり、びっくりしています。それで、どうしてここを知ったのかというと、テレビや新聞、ネットで見たというんです。

−−そういう動きがあることは、とてもいいことですね。

水島さん 「ネットカフェ難民」に関していえば、2回目の放送後にも2本の関連番組を放送していまして、そのうちの1本は「NEWS ZERO」の特番という形でした。それは「ネットカフェ難民」の実態をVTRでみせる内容だったのですが、そこで女性タレントが日雇い派遣を3日間だけ体験するということで、食品工場などで働いてもらったんです。
 それで、仕事が終わって事務所にその日の給料を取りに行くんですが、1分でも遅れると給料がもらえないわけです。そういう工場は都心から離れたところにあるものですから、時間に間に合わず、給料がもらえなかったことが2回続いて、ネットカフェに泊まるお金もなくなり、ハンバーガーショップに泊まったりしたものの、さらにそれも難しくなっていき、最後はとうとう泣き出してしまったんですね。こんなにボロボロになるんだったら、とても這い上がるという気持ちがなくなっちゃうと……。

−−それはとてもリアルな体験ですね。ところで、水島さんが貧困の問題に目を向けることになったきっかけとは何でしょうか。

水島さん 札幌テレビ時代の87年に制作した「母さんが死んだ」というドキュメンタリーを作ったことですね。

−−札幌母親餓死事件を扱ったものですね。それは書籍にもなって、かなり反響があったように思いますが。ただ、その当時と比べて状況が改善されていないような気がするのですが。

水島さん 小泉首相の時代を中心に、財界のトップを経済財政諮問会議の中心メンバーに据えて、構造改革が断行されましたが、札幌母親餓死事件のときも、ちょうど土光臨調(第二次臨時行政調査会)のときで、行政改革をやって福祉予算削減ということになっていました。その際、必ずといっていいほどターゲットになるのが生活保護なんです。
 しかも、雇用の規制緩和で当時と比べて貧困問題の根は広く、深くなってきいると思います。あとがきにも書いたんですが、今や労働者の4人に1人が年収200万円以下ですから。自営業も入れると3人に1人といわれています。

−−最近の雑誌では、年収200万円でいかに暮らすかということが特集されていますし。

水島さん もちろん、そういうノウハウはあってもいいと思いますが、そもそも、その額というのが人間にとって本来あるべき水準なのかというと、非常に疑問ですよね。20年前に「母さんが死んだ」という本を書いたときは、母子家庭とかパートの人たちが年収200万円以下のレベルだったんです。男性の正社員でそのレベルというのはそれほどいなかったんですが……。ここ最近は社会全体が母子家庭化してしまったとも言われていますね。

−−海外ではこのようなネットカフェ難民の問題とか出てきているのでしょうか。

水島さん 日本同様ネットが普及している韓国では、ネットカフェ難民に近い人たちもいるという話を現地の記者から聞きました。もちろん、ホームレスのような、社会から排除されている人々をいかにして社会復帰させるかという問題は、ヨーロッパをはじめ、どこの国でもあります。ただ、日本ではそれが正面からなかなか議論されないんです。

−−それはなぜでしょうか。

水島さん ヨーロッパではこの種の問題があると、テレビ番組の中で知識人といわれる人たちが専門的に議論をして、それをメディアがきちんと伝える構造ができているんです。一方、日本では世間の井戸端会議レベルでしか報道しない。貧困というのは構造的にどうやって生み出されてくるのか、それへの対策はどうあるべきかというのを説明することはとても重要なんですが、そういう真っ当な議論がマスメディアに出てこない。政治家もこの問題に関しては庶民と同じレベルで感情的にワーワー言うだけです。メディアもそのレベルでしか報じない。日本のマスメディアは一般の人たちの気持ちを代弁することは多いのですが、人々が気づいていない点を指摘するということは少ないと思います。

−−わかりました。ところで、本書のテーマは「ネットカフェ難民」というよりも、彼らを通して見た「貧困ニッポン」なのではないでしょうか。

水島さん そのとおりです。いかに貧困というのが人間を傷つけたり、生きる権利を失わせているのかというのを伝えようとしました。そのキーワードであり、象徴が「ネットカフェ難民」なのです。

−−これから、後追いの番組を制作する予定とかあるのでしょうか。

水島さん 今、続編の取材を始めたところで、そこでは支援する側に焦点を当てようと思っています。この12月にも労働組合とかホームレス支援団体とかが一緒になって、「反貧困たすけあいネットワーク」というのを立ち上げるんですが、そうした動きとかも取り上げます。
 また、ネットカフェ難民となる人たちは、いろいろな要因が複雑にからみあって、今の生活を送っているわけなんです。たとえば、家族の問題であるとか、健康保険や生活保護などの社会保障制度であるとか。そういった面も掘り下げていきます。

−−わかりました。それでは、最後にこのインタビューを読まれている方にメッセージをお願いします。

水島さん 今の日本社会はどこかおかしいんじゃないか?身近なところでそう感じている人はたくさんいると思います。どうしてこんな世の中になってしまったのか?と。そうした人たちがこの本を読んで、実は「ネットカフェ難民」に象徴されるような「貧困」の問題がその背景にあると気づいてくれればと思います。

水島宏明さんのプロフィール

みずしま・ひろあき
1957年、北海道生まれ。東京大学法学部卒。
札幌テレビを経て日本テレビ放送網に入社。
現在、「NNNドキュメント」チーフディレクターとしてドキュメンタリーを制作する一方、解説委員として「ズームイン!!SUPER」の新聞解説コーナー等に出演している。

1988−92年 NNNロンドン特派員 「ベルリンの壁崩壊」「湾岸戦争」等を取材
1998−03年 NNNベルリン支局長 「イラク戦争」「ユーゴ崩壊」等を取材

主な制作番組
「母さんが死んだ〜生活保護の周辺」(ギャラクシー賞、地方の時代優秀賞)
「過疎を喰った病院」(ギャラクシー選奨)
「天使の矛盾〜さまよえる准看護婦」(文化庁芸術祭優秀賞、放送文化基金賞、日本民間放送連盟最優秀賞)
「新宿区立”未来の”小学校」(日本賞優秀番組賞)
「喰いものにされたキヨシさん」「ニッポン貧困社会〜生活保護は助けない」(合わせてギャラクシー賞報道活動部門優秀賞)
「カナリアの子供たち〜検証・化学物質過敏症」(地方の時代優秀賞、高柳記念賞、平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)
「ネットカフェ難民〜漂流する貧困者たち」(日本民間放送連盟優秀賞)
「ネットカフェ難民2〜破壊される雇用」(前作と合わせて平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)
「ネットカフェ難民〜見えないホームレス急増の背景」(文化庁芸術祭テレビ部門優秀賞)

主な著書
「母さんが死んだ〜幸せ幻想の時代に」
(ひとなる書房=大宅壮一ノンフィクション賞最終候補作品、文庫版・社会思想社)

NNNドキュメントのHP
水島宏明さんの本をチェック!
母さんが死んだ〜幸せ幻想の時代に 母さんが死んだ〜幸せ幻想の時代に
ひとなる書房
価格:1,890円(税込)
厳寒の地で起きた母親餓死事件。母子家庭の経済的困難。冷酷な福祉行政。現代日本の影を徹底した取材で浮き彫りにする渾身のルポルタージュ。

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